Photo by Kazma Kobayashi
Franz Ferdinand @Garden Theater 2025.12.11
フランツ・フェルディナンドの来日ツアー最終日、東京ガーデンシアターの舞台には地面に打ち込まれたフレームのようなインダストリアルなセットが設置されている。もうもうとスモークが立ち込め、おなじみのSE『Police Squad!』のテーマにのせメンバーが登場。オープニングを飾る「The Dark of the Matinee」の〈Take your white finger〜〉の歌いだしから悲鳴にも似た歓声が上がり、タイトなグルーヴが押し寄せる。ブリッジの前でたっぷりとタメを効かせ、オーディエンスを興奮の渦に巻き込んでいく。
最新アルバム『The Human Fear』からチープなシンセが効果的で軽やかさと怪しさの間を駆け抜ける「The Doctor」が終わると「今夜の東京のエナジーが大好きだ!」とアレックス・カプラノスが満足げに語りかける。跳ねるビートと鋭いカッティングギターにねっとりとしたヴォーカルが絡む「No You Girls」に体が動かずにいられない。
抑えたヴォーカルとじわりじわりと高揚していくバンドアンサンブルが持ち味の「Night or Day」が終わると、アレックスが最新アルバムからの曲を演奏しに戻ってこられたことに感謝を述べ、「次は昔の曲を」と「Do You Want To」がはじまりオーディエンスの熱狂がいきなり最高潮に達する。爆発的なサビの快楽を持つ曲展開、リリックの組み合わせで聴き手を高揚させるフランツのシグネチャーチューン。地元グラスゴーにちなんだリリック〈Transmission party〉を〈Tokyo party〉に歌い替え、アウトロの前で何度もオーディエンスをあおり拍手を求め、会場から〈Oh, lucky, lucky (You're so lucky)〉の大合唱が起こる。「Audacious」では、トゥワンギーなギターリフを起点に次々と明かされる秘密のような展開により強まったサビのパワーに場内がさらに揺れる。
まだ序盤なのにそんなに突っ走って大丈夫なのか、とそのパワーに圧倒されていると、ゆったりとしたグルーヴとスペイシーなシンセ、ダブエフェクトにより浮遊感を湛えた「40'」が始まり、バンドは何度もオーディエンスにシンガロングを求める。「Build It Up」はフランツらしい推進力がありながら、初期の重厚さよりもふしぎな軽さがある。『The Human Fear』からこうしたナンバーが加わることで、さらにセットリストが豊かなものになっていた。
60’sブリティッシュロック的シャープなギターのカッティングとポストパンク的なリズムを組み合わせた編集感覚が発揮された「The Fallen」。ジュリアン・コリーはこの曲以外でもキーボードからギターに持ち替えることがしばしばあり、彼の八面六臂の活躍はいまのバンドにとって欠かせないものであることが確認できる。
かねてから日本好きであることを公言しているメンバーだが、この夜もアレックスが「東京をハングアウトするのが大好きなんだ」と語り始める。数年前に訪れた実在する場所と人々についての曲、という紹介のあと「Bar Lonely」。一気に空間が広がるサビが、東京・新宿のゴールデン街の喧騒とある種の寂しさを掻き立ててやまない。
そして「次の曲は『Smoke On The Water』」とジョークをかましたあと、アレックスがブズーキを弾きながら歌う「Black Eyelashes」へ。自身のギリシャのルーツへオマージュを捧げたナンバーだ。
ギターのカッティングが鋭利な「Michael」は、疾走するリズムとあっけない幕切れが快感だ。ジュリアンのシンセサイザーソロそしてハードロック的なディーノ・バルドーとアレックスのギターの絡みが映える「Love Illumination」では会場中が手を挙げて手拍子する。
ここでアレックスがこの日も着用しているスーベニア・ジャケットをコラボレーションしたRUDE GALLERYに感謝を伝え、「スマホをしまって、クレイジーになって!」と呼びかけ「Take Me Out」のイントロが始まる。ガレージロックな前半と後半のゆったりとしたグルーヴを接続させ、この体感テンポを変えることでリスナーに快感を与える歴史的発明は衰えることがない。そして彼らのライブの定番である「Outsiders」へなだれ込む。タイトなギターのカッティングと4つ打ちのリズムが永遠に終わらないループを作り、アウトロではドラムセットの周りにメンバーが集まりダイナミックなドラムジャムを敢行し、本編は幕を閉じた。
アンコールの声に応え登場したバンド、アレックスがおもむろに「別の曲を聴きたいかい?」と呼びかけ、当初予定されていたセットリストには入っていなかった「Jacqueline」をプレイ。静かなイントロから、ソリッドなバンドアンサンブルが展開する彼らの美学が詰まったクラシックだ。さらに淡々と語るような歌い方から、一気に感情がこぼれ出すドラマティックな「Walk Away」でも、サビをオーディエンスに歌わせる。
これで次が最後の曲かと思っていると、さらに低くうねるサイケデリックなベースリフが聞こえ「Ulysses」へ。ダブレゲエのグルーヴとサビのスケール感のなか〈La La La…〉の享楽的なサビで大合唱が起こる。夜のイメージ繋がりとも言えるヘヴィでダークなシンセのヴァイヴがダンサブルな「Hooked」へ。
アンコールはまだまだ終わらない。さらにフランツの最もストレートな曲のひとつと言える、近年のライブではレアとなる「Evil and a Heathen」の破壊力ときたら!そして大団円は、ドラムのオードリー・テートから順番にメンバー紹介し、世界でもっともお気に入りの街だと東京にシャウトアウトし、「This Fire」になだれ込んでいく。ポストパンク的ソリッドさとサビの広がりのなか、ブレイク部分でオーディエンスをしゃがませ、コーラスの爆発力を高める。会場全体で〈この火は制御不能だ/この街を燃やしてやる〉というサビをシンガロングする姿はいささかアナーキーかもしれないが、フランツ・フェルディナンドの音楽がなにかに束縛されている人たちを鼓舞するための音楽、と考えるとこれほどふさわしいテーマソングはないと思える。演奏が終わり万雷の拍手を受け5人が手を繋いで声援に応える姿がなんとも清々しかった。
終わってみると、なんと6曲ものアンコールを披露。ベストヒッツ的セットリストではあるものの、やはり最新アルバム『The Human Fear』からのナンバーの訴求力が強く印象に残る。新作のナンバーがセットに組み込まれることで初期の名曲が際立ち、核となる「これぞフランツ」という推進力あるメロディとグルーヴが浮き彫りになっていた。セットやライティングも無駄を削ぎ落とした美学で、バンドのエネルギッシュなパフォーマンスに焦点を当てている。アレックスのロックスター感たっぷりのジャンプも拝むことができた。フランツ・フェルディナンドとしてのアイデンティティを積極的に受け入れること—『The Human Fear』のテーマを彼らはそう形容しているが、ライブにおいてもそのスピリットは通底していると感じずにはいられない夜だった。
Text by 駒井憲嗣
Franz Ferdinand @Garden Theater 2025.12.11
フランツ・フェルディナンドの来日ツアー最終日、東京ガーデンシアターの舞台には地面に打ち込まれたフレームのようなインダストリアルなセットが設置されている。もうもうとスモークが立ち込め、おなじみのSE『Police Squad!』のテーマにのせメンバーが登場。オープニングを飾る「The Dark of the Matinee」の〈Take your white finger〜〉の歌いだしから悲鳴にも似た歓声が上がり、タイトなグルーヴが押し寄せる。ブリッジの前でたっぷりとタメを効かせ、オーディエンスを興奮の渦に巻き込んでいく。
最新アルバム『The Human Fear』からチープなシンセが効果的で軽やかさと怪しさの間を駆け抜ける「The Doctor」が終わると「今夜の東京のエナジーが大好きだ!」とアレックス・カプラノスが満足げに語りかける。跳ねるビートと鋭いカッティングギターにねっとりとしたヴォーカルが絡む「No You Girls」に体が動かずにいられない。
抑えたヴォーカルとじわりじわりと高揚していくバンドアンサンブルが持ち味の「Night or Day」が終わると、アレックスが最新アルバムからの曲を演奏しに戻ってこられたことに感謝を述べ、「次は昔の曲を」と「Do You Want To」がはじまりオーディエンスの熱狂がいきなり最高潮に達する。爆発的なサビの快楽を持つ曲展開、リリックの組み合わせで聴き手を高揚させるフランツのシグネチャーチューン。地元グラスゴーにちなんだリリック〈Transmission party〉を〈Tokyo party〉に歌い替え、アウトロの前で何度もオーディエンスをあおり拍手を求め、会場から〈Oh, lucky, lucky (You're so lucky)〉の大合唱が起こる。「Audacious」では、トゥワンギーなギターリフを起点に次々と明かされる秘密のような展開により強まったサビのパワーに場内がさらに揺れる。
まだ序盤なのにそんなに突っ走って大丈夫なのか、とそのパワーに圧倒されていると、ゆったりとしたグルーヴとスペイシーなシンセ、ダブエフェクトにより浮遊感を湛えた「40'」が始まり、バンドは何度もオーディエンスにシンガロングを求める。「Build It Up」はフランツらしい推進力がありながら、初期の重厚さよりもふしぎな軽さがある。『The Human Fear』からこうしたナンバーが加わることで、さらにセットリストが豊かなものになっていた。
60’sブリティッシュロック的シャープなギターのカッティングとポストパンク的なリズムを組み合わせた編集感覚が発揮された「The Fallen」。ジュリアン・コリーはこの曲以外でもキーボードからギターに持ち替えることがしばしばあり、彼の八面六臂の活躍はいまのバンドにとって欠かせないものであることが確認できる。
かねてから日本好きであることを公言しているメンバーだが、この夜もアレックスが「東京をハングアウトするのが大好きなんだ」と語り始める。数年前に訪れた実在する場所と人々についての曲、という紹介のあと「Bar Lonely」。一気に空間が広がるサビが、東京・新宿のゴールデン街の喧騒とある種の寂しさを掻き立ててやまない。
そして「次の曲は『Smoke On The Water』」とジョークをかましたあと、アレックスがブズーキを弾きながら歌う「Black Eyelashes」へ。自身のギリシャのルーツへオマージュを捧げたナンバーだ。
ギターのカッティングが鋭利な「Michael」は、疾走するリズムとあっけない幕切れが快感だ。ジュリアンのシンセサイザーソロそしてハードロック的なディーノ・バルドーとアレックスのギターの絡みが映える「Love Illumination」では会場中が手を挙げて手拍子する。
ここでアレックスがこの日も着用しているスーベニア・ジャケットをコラボレーションしたRUDE GALLERYに感謝を伝え、「スマホをしまって、クレイジーになって!」と呼びかけ「Take Me Out」のイントロが始まる。ガレージロックな前半と後半のゆったりとしたグルーヴを接続させ、この体感テンポを変えることでリスナーに快感を与える歴史的発明は衰えることがない。そして彼らのライブの定番である「Outsiders」へなだれ込む。タイトなギターのカッティングと4つ打ちのリズムが永遠に終わらないループを作り、アウトロではドラムセットの周りにメンバーが集まりダイナミックなドラムジャムを敢行し、本編は幕を閉じた。
アンコールの声に応え登場したバンド、アレックスがおもむろに「別の曲を聴きたいかい?」と呼びかけ、当初予定されていたセットリストには入っていなかった「Jacqueline」をプレイ。静かなイントロから、ソリッドなバンドアンサンブルが展開する彼らの美学が詰まったクラシックだ。さらに淡々と語るような歌い方から、一気に感情がこぼれ出すドラマティックな「Walk Away」でも、サビをオーディエンスに歌わせる。
これで次が最後の曲かと思っていると、さらに低くうねるサイケデリックなベースリフが聞こえ「Ulysses」へ。ダブレゲエのグルーヴとサビのスケール感のなか〈La La La…〉の享楽的なサビで大合唱が起こる。夜のイメージ繋がりとも言えるヘヴィでダークなシンセのヴァイヴがダンサブルな「Hooked」へ。
アンコールはまだまだ終わらない。さらにフランツの最もストレートな曲のひとつと言える、近年のライブではレアとなる「Evil and a Heathen」の破壊力ときたら!そして大団円は、ドラムのオードリー・テートから順番にメンバー紹介し、世界でもっともお気に入りの街だと東京にシャウトアウトし、「This Fire」になだれ込んでいく。ポストパンク的ソリッドさとサビの広がりのなか、ブレイク部分でオーディエンスをしゃがませ、コーラスの爆発力を高める。会場全体で〈この火は制御不能だ/この街を燃やしてやる〉というサビをシンガロングする姿はいささかアナーキーかもしれないが、フランツ・フェルディナンドの音楽がなにかに束縛されている人たちを鼓舞するための音楽、と考えるとこれほどふさわしいテーマソングはないと思える。演奏が終わり万雷の拍手を受け5人が手を繋いで声援に応える姿がなんとも清々しかった。
終わってみると、なんと6曲ものアンコールを披露。ベストヒッツ的セットリストではあるものの、やはり最新アルバム『The Human Fear』からのナンバーの訴求力が強く印象に残る。新作のナンバーがセットに組み込まれることで初期の名曲が際立ち、核となる「これぞフランツ」という推進力あるメロディとグルーヴが浮き彫りになっていた。セットやライティングも無駄を削ぎ落とした美学で、バンドのエネルギッシュなパフォーマンスに焦点を当てている。アレックスのロックスター感たっぷりのジャンプも拝むことができた。フランツ・フェルディナンドとしてのアイデンティティを積極的に受け入れること—『The Human Fear』のテーマを彼らはそう形容しているが、ライブにおいてもそのスピリットは通底していると感じずにはいられない夜だった。
Text by 駒井憲嗣