Photo by Yukitaka Amemiya
Annie & The Caldwells @ duo MUSIC EXCHANGE 2025.10.20
デヴィッド・バーンが設立した〈Luaka Bop〉よりリリースされたアルバム『Can’t Lose My (Soul)』をひっさげて、ミシシッピ発のファミリー・バンド、アニー&ザ・コールドウェルズによる初来日公演。朝霧JAMに続く東京公演の会場、duo MUSIC EXCHANGEのステージにはまず、スペシャル・ゲストのピーター・バラカンが登場。ステイプル・シンガーズの「Respect Yourself」からDJをスタートした。アニー&ザ・コールドウェルズがもともとステイプル・シンガーズに敬意を表しステイプル・ジュニア・シンガーズという名前で活動していたことを踏まえての導入から、ゴスペル愛に溢れまくった選曲でバンド登場前のフロアをあたためた。
ステージ後方のスクリーンにバンドのロゴが掲げられると、ギタリストでアニーの夫ウィリー・ジョー・コールドウェル、長男でベーシストのウィリー・ジュニア・コールドウェル、末子のドラマー、アベル・エイキリアス・コールドウェルがステージに現れ「Wrong」をインストゥルメンタルでプレイしはじめる。しなやかなグルーヴがたちまち会場を包む。この曲でメインをとる娘のデボラ・コールドウェル・ムーアが登場し「今晩は!元気?」と呼びかける。ほどなく娘のアンジェシカ・コールドウェルと名付け娘のトニ・リヴァースも登場すると、熱気が渦を巻く。
「I Made It」のイントロが鳴り響くとデボラが「マイ・マザー!」とアニー・ブラウン・コールドウェルをステージ中央に呼びよせる。アニーがリードボーカルをとるこの曲はずっしりとしたリズム・セクションにサンプリングソースとして使いたくなるようなギターの響きが重なり、〈You Dropped A Bomb On Me〉と連呼されるど迫力のコーラスが重なるファンク・チューン。中盤から、オーディエンスとのコール&レスポンスがはじまる。「もっと大きく!」と指導が入りながら、さらにフロアの温度は高まっていく。デボラの堂々たる存在感、動き回るアンジェシカ、ふたりを絶妙にサポートするトニのコンビネーションが秀逸だ。
ここで一転、ミッド・テンポの「I'm Going To Rise」に移る。会場がディープでゆったりとしたグルーヴに覆われる。エモーショナルなヴォーカルが重厚なリズムのなかで映え、それまで豊かな音色でサウンドを彩ってきたアニーの夫ウィリー・ジョー・コールドウェルによるめちゃくちゃ泣きのギターソロが披露されると歓声が巻き起こり、デボラが「マイ・ダディーに拍手を!」と呼びかける。信仰を忘れないこと、希望を忘れないことを歌い続けてきた彼女たちだが、サウンドにもそうした思いが滲み出ているように感じられる。
続いてもメロウなムードとなる「Don’t You Hear Me Calling」。1980年代に心臓移植を必要とした兄を悼む曲で、生々しい日常が物語のように語られる。地を這うようなグルーヴに沿い、アニーが感極まったように椅子から立ち上がりシャウトすると、会場からも手が上がる。〈Do You Believe〉〈I Believe〉のコール&レスポンスが何度も繰り返される。デボラがマイクを客席に渡すと、オーディエンスが思い思いに日頃の鬱憤を晴らすように歌い繋いでいく。バンドと一緒に歌うことで心が浄化される。音楽を通して日常で抱えているストレスや緊張を解き放つ—ゴスペルの魅力の中核を目の当たりにした気持ちになる、実に20分に及ぶ圧巻の演奏だった。
さらにチャカ・カーンの「Ain't Nobody」を歌い替えた「Make me wanna (can't nobody)」では、音源よりもファンク度を高めたアレンジメントのなか、〈Do You Feel Good? I Feel Good〉というコールが単なる決まり文句ではなく、真実の言葉として響く。客席からもたまりかねたように「カッコイイ!」と声があがる。
ゆったりとしたグルーヴに戻り、最後の曲であることが告げられ、アルバムのタイトル曲「Can’t Lose My Soul」。後半、アンジェシカがマイクを客席に渡し、〈Soul!〉とコール&レスポンスが繰り返される。「遠慮しないで」との呼びかけに、オーディエンスが次々に思い思いに自らのスタイルで歌い繋いでいく。なんという光景だろう!胸を打たれる。バンドとオーディエンスが一体になり、高揚していく感覚がたまらない。
アニーが天に手を掲げながら「ハレルヤ!」と叫ぶ。
客電がついてもアンコールの声が鳴り止まず、再びメンバーが登場し、スティービー・ワンダーの「Jesus Children of America」をプレイ。近年でもロバート・グラスパーとレイラ・ハサウェイがカヴァーした楽曲だが、先のチャカ・カーンもそうだけれど、ポップ・ミュージックをアレンジし自らのメッセージと原曲のメッセージを融合させようとする姿勢にあらためて感嘆した。
50年以上にわたり地元ミシシッピ州ウェストポイントで演奏し続けてきた彼女たちを生で観ることができた感慨とともに、ゴスペル・ミュージックの真髄を堪能することができたライブだった。この夜のオープニングを飾った「Wrong」が浮気をきっかけにした恋愛関係の複雑さがテーマになっていたり、日常の喜怒哀楽を積み重ねてきた、人生経験に基づく苦み走った重さもありながら、直接体に訴えかけるリフレインが生む高揚もあり、驚くほど親しみやすい。ダンス・ミュージックとの相性の良さは、先日のアルバムからの楽曲がニッキー・シアノやホット・チップのアレクシス・テイラーらにリミックスされたことで実証済みだが、ゴスペル・ミュージックはダンス・ミュージックでもあることを確認できたことも嬉しかった。〈Luaka Bop〉に、教会に限定せず演奏を続けてきた彼女たちのメッセージをここまで届けてくれたことに感謝したい。
Text by 駒井憲嗣
Annie & The Caldwells @ duo MUSIC EXCHANGE 2025.10.20
デヴィッド・バーンが設立した〈Luaka Bop〉よりリリースされたアルバム『Can’t Lose My (Soul)』をひっさげて、ミシシッピ発のファミリー・バンド、アニー&ザ・コールドウェルズによる初来日公演。朝霧JAMに続く東京公演の会場、duo MUSIC EXCHANGEのステージにはまず、スペシャル・ゲストのピーター・バラカンが登場。ステイプル・シンガーズの「Respect Yourself」からDJをスタートした。アニー&ザ・コールドウェルズがもともとステイプル・シンガーズに敬意を表しステイプル・ジュニア・シンガーズという名前で活動していたことを踏まえての導入から、ゴスペル愛に溢れまくった選曲でバンド登場前のフロアをあたためた。
ステージ後方のスクリーンにバンドのロゴが掲げられると、ギタリストでアニーの夫ウィリー・ジョー・コールドウェル、長男でベーシストのウィリー・ジュニア・コールドウェル、末子のドラマー、アベル・エイキリアス・コールドウェルがステージに現れ「Wrong」をインストゥルメンタルでプレイしはじめる。しなやかなグルーヴがたちまち会場を包む。この曲でメインをとる娘のデボラ・コールドウェル・ムーアが登場し「今晩は!元気?」と呼びかける。ほどなく娘のアンジェシカ・コールドウェルと名付け娘のトニ・リヴァースも登場すると、熱気が渦を巻く。
「I Made It」のイントロが鳴り響くとデボラが「マイ・マザー!」とアニー・ブラウン・コールドウェルをステージ中央に呼びよせる。アニーがリードボーカルをとるこの曲はずっしりとしたリズム・セクションにサンプリングソースとして使いたくなるようなギターの響きが重なり、〈You Dropped A Bomb On Me〉と連呼されるど迫力のコーラスが重なるファンク・チューン。中盤から、オーディエンスとのコール&レスポンスがはじまる。「もっと大きく!」と指導が入りながら、さらにフロアの温度は高まっていく。デボラの堂々たる存在感、動き回るアンジェシカ、ふたりを絶妙にサポートするトニのコンビネーションが秀逸だ。
ここで一転、ミッド・テンポの「I'm Going To Rise」に移る。会場がディープでゆったりとしたグルーヴに覆われる。エモーショナルなヴォーカルが重厚なリズムのなかで映え、それまで豊かな音色でサウンドを彩ってきたアニーの夫ウィリー・ジョー・コールドウェルによるめちゃくちゃ泣きのギターソロが披露されると歓声が巻き起こり、デボラが「マイ・ダディーに拍手を!」と呼びかける。信仰を忘れないこと、希望を忘れないことを歌い続けてきた彼女たちだが、サウンドにもそうした思いが滲み出ているように感じられる。
続いてもメロウなムードとなる「Don’t You Hear Me Calling」。1980年代に心臓移植を必要とした兄を悼む曲で、生々しい日常が物語のように語られる。地を這うようなグルーヴに沿い、アニーが感極まったように椅子から立ち上がりシャウトすると、会場からも手が上がる。〈Do You Believe〉〈I Believe〉のコール&レスポンスが何度も繰り返される。デボラがマイクを客席に渡すと、オーディエンスが思い思いに日頃の鬱憤を晴らすように歌い繋いでいく。バンドと一緒に歌うことで心が浄化される。音楽を通して日常で抱えているストレスや緊張を解き放つ—ゴスペルの魅力の中核を目の当たりにした気持ちになる、実に20分に及ぶ圧巻の演奏だった。
さらにチャカ・カーンの「Ain't Nobody」を歌い替えた「Make me wanna (can't nobody)」では、音源よりもファンク度を高めたアレンジメントのなか、〈Do You Feel Good? I Feel Good〉というコールが単なる決まり文句ではなく、真実の言葉として響く。客席からもたまりかねたように「カッコイイ!」と声があがる。
ゆったりとしたグルーヴに戻り、最後の曲であることが告げられ、アルバムのタイトル曲「Can’t Lose My Soul」。後半、アンジェシカがマイクを客席に渡し、〈Soul!〉とコール&レスポンスが繰り返される。「遠慮しないで」との呼びかけに、オーディエンスが次々に思い思いに自らのスタイルで歌い繋いでいく。なんという光景だろう!胸を打たれる。バンドとオーディエンスが一体になり、高揚していく感覚がたまらない。
アニーが天に手を掲げながら「ハレルヤ!」と叫ぶ。
客電がついてもアンコールの声が鳴り止まず、再びメンバーが登場し、スティービー・ワンダーの「Jesus Children of America」をプレイ。近年でもロバート・グラスパーとレイラ・ハサウェイがカヴァーした楽曲だが、先のチャカ・カーンもそうだけれど、ポップ・ミュージックをアレンジし自らのメッセージと原曲のメッセージを融合させようとする姿勢にあらためて感嘆した。
50年以上にわたり地元ミシシッピ州ウェストポイントで演奏し続けてきた彼女たちを生で観ることができた感慨とともに、ゴスペル・ミュージックの真髄を堪能することができたライブだった。この夜のオープニングを飾った「Wrong」が浮気をきっかけにした恋愛関係の複雑さがテーマになっていたり、日常の喜怒哀楽を積み重ねてきた、人生経験に基づく苦み走った重さもありながら、直接体に訴えかけるリフレインが生む高揚もあり、驚くほど親しみやすい。ダンス・ミュージックとの相性の良さは、先日のアルバムからの楽曲がニッキー・シアノやホット・チップのアレクシス・テイラーらにリミックスされたことで実証済みだが、ゴスペル・ミュージックはダンス・ミュージックでもあることを確認できたことも嬉しかった。〈Luaka Bop〉に、教会に限定せず演奏を続けてきた彼女たちのメッセージをここまで届けてくれたことに感謝したい。
Text by 駒井憲嗣