Goat Girl
19曲、40分をかけて、Goat Girlのデビュー作品は、非常に汚れた醜い都市という現実を題材に、半分ファンタジーの世界を作り上げた。バンドによると、「簡潔に言うと、このアルバムはロンドンで育ったことや、私たちが直接体験した都市の退化が背景になっている。私の目を通して見たロンドンという場所だけではなく、ロンドンで起こっている、異常や奇妙な出来事を気にせずにいられない人という立場からアルバムを作りたかった。その方が、人間なら誰しも感じることのある、語られない真実や感情を、歌詞や音楽を通してもっと自由に探求できると思ったの。」

この世界は、気味の悪い奴や、嘘つき、恋人、夢追い人、そして素晴らしい狂人たちで溢れている。これはとてもイギリスらしいアルバムだ。The Kinksのような鋭い観察があり、The Slitsのような怪しげな怒りがある。だが、スワンプ・ロックを思わせるような威勢の良いギターや、Lottieの下品でゆっくりした口調も満載だ。「こんな歪んだカントリーサウンドにしようと思ったわけではなかったんだけど、もともと私たちが魅力を感じたり、インスピレーションを受けていたりしたのがそういう音だったんだと思う。ローファイで、不協和音や、しゃがれた音を出すバンド。」

彼女たちは、Shame、Bat-Bike、Madonnatron、Horsey、Sorryその他多数から成るサウスロンドンシーンの一員だ。「Windmill やTrashmouthのギグはとても重要。規則性があるのよ。色々なギグや会場で同じ人を何度も見かける。お互いが助け合うの。ギグに出してあげたり、出させてもらったり。お互いの音楽を素直に良いと思っているから。」
Windmillのプロモーター、Tim Perryもそういうことを意識し、念入りなアプローチで、バンドがお互いのサウンドを引き立たせるようなラインアップを作りあげている。「Windmillは私たちにとって大切な場所。私たちの音楽が意味を成す初めての場所だったから。それまでも、色々な場所でギグをやってきたけど、心地よい環境として落ち着けたのはWindmillが初めてだった。Windmillでは、人々が素直に音楽を聴き、ありがたみを感じているし、法律やライセンスの悪影響を受けていない会場だからセーフスペースなの。」

ライブで経験した自由のおかげで、Goat Girl は曲をレコーディングするときも自由なアプローチで臨むことができた。「ライブの感じと同じような響きにしたかったから、テープ中心のアプローチが私たちにとって最適だということが最初から分かっていたの。(テープでレコーディングすると)失敗してもそれをエディットして消すことができないから、そのままにするでしょ。そうすると、完璧にしなければいけないという意識がそこまで強くなくなるの。」

「Streathamにいるプロデューサーで、私たちのニーズに合致している人がいると聞いたから彼に会いに行ったわ。Dan Carey。彼のスタジオは、自宅の一階の一部屋なの。それも魅力的だった。とてもリラックスできて、レコーディングするのに自然な環境だった。それはバンドにとって大切なことだった。演奏していても音のエネルギーに心地良さが感じられるから。それに一つの部屋で一緒に演奏していて、 ダンがしゃがんだりして色々実験しながら、ライブの最終アウトプットを模索している時、私たちはお互いのサウンドを聴きながら影響を与え合うことができた。それは今までに体験してきたたような、各自が隔離された、豪華なハイファイスタジオとは違った環境だった。」

「Danはマッドサイエンティストみたいなの。 スタジオを歩き周って、アナログ楽器を色々といじりながら、自分の世界に没頭している彼を見ていると、素敵だなと思うし、そんな彼のそばにいるとインスピレーションを受けるわ。私たちが求めていたのは、何が機能すると思うかを教えてくれるプロデューサーよ。私たちが指示するのではなくてね。私たちはプロデューサーじゃないんだもの。新しい見方で自分たちの音楽を捉えらえる人が欲しかった。じゃなかったら意味がないじゃない?」

「全てをテープに録音したことで、各曲の基礎を早く固めることができて、不要な面倒を省くことができた。その分、アルバムのプレプロダクションの段階でより念入りに考えることができた。曲が次の曲へと統一感ある感じで流れ、シングルをまとめただけのアルバムではなく、アルバムという物語ができるようにした。」 この最初の過程を簡潔にするという作業は、 ライブ音楽で最初に発生する生々しい瞬間を捉えるために、1日で作曲と録音をするという、Dan Careyが自身のレーベル<Speedy Wunderground>で掲げている哲学を反映したものだ。Goat Girlはその精神にインスピレーションを受けた。

「その後は、曲それぞれのレイヤーやテクスチャにじっくりフォーカスして、ただのライブで弾いた過激なギター音楽に聴こえないように、曲が示唆しうる様々な文脈について考えたわ。私たちみたいな楽器の演奏の仕方だと、そういう世界でやっていくのは安易すぎると思っていたから、今回は、そんな気持ちを乗り越える良い機会だった。Danのスタジオで作業する上で素晴らしいことは、スタジオには様々なアナログ・シンセやサウンドから選ぶことができるから、もっとエレクトニックなサウンドに近づける可能性に囲まれていることなの。そこで私たちはスワーマトロンやメロトロンやドラムマシーンなどを加えて行った。」このエレクトロニックな体験は、インディーギターが基盤となったシーンに閉じ込められていたらしいGoat Girlにとっては大切な体験であったが、もちろんバンドを定義づけるものではなかった。「どのバンドでもそうだけど、商品化は避けられない。レコーディングの段階で実験をして自分たちの音楽を進化させることができたおかげで、自分たちの音楽が今後どんな道に進んでいくことができるのかと言う様々な可能性が見えてきた。」

1つの形からサウンドを進化させたいという気持ちの背景には、メンバーそれぞれが異なった音楽のテイストの持ち主であり、バンドに対してそれぞれが異なる貢献をしているという点も起因している。 Lottieは次のように語る「私たちは幅広いジャンルの音楽を聴くから、それが様々な方法で自分たちの音楽に反映されていると思う。私は個人的には、実験的なエレクトロニック音楽が主に好きなんだけど、プロダクションにかなりの手が掛けられたポップも好きで、それが私のメロディや構成のアプローチに反映されていると思う。」Goat girlを聴くと、他にもクラウト・ロック、ボサノヴァ、ジャズ、ブルースなどにインスピレーションを受けていることが聴き取れ、その影響は多様で興味深い。

リードシングルの「Cracker Drool」は、粋であると同時に邪悪な雰囲気があり、渦巻くようなギター、響く歌声、ドラムの合成音が重なり、混ざり合い、暗いストーリーを物語る。そして「Slowly Reclines」へと続くが、この曲も同じくらい邪悪で、かなりの重みも感じられる。アルバムは区切りをつけてレコーディングされた。一度に2、3、4曲ずつ、がむしゃらなエネルギーとともに。間奏曲でそのエネルギーが途切れると、さらに奇妙なパラレルワールドが垣間見られる瞬間を感じられる。

「Creep」は予想通りでニヤリとしてしまうかもしれないが、実際に起こった出来事からインスピレーションを得てできた曲だ。「電車のキモい奴(Creep on the train) / マジであんたの頭を潰してやりたい(I really want to smash your head in)。」「そういう状況になった時、立ち向かえると普段は思っているでしょ。」 Lottieは言う。「でも多くの場合、静かな礼儀正しさというものに乗っ取られて、何も起こっていないかのようなふりをしてしまうの。自分の頭の中では、全てが起こってしまったのに。そんな一連の出来事を、歌詞を使って好きな物語に捻じ曲げることができると、実際に何かやり遂げたような感じにさせてくれるの。そしてそれが自分にとっての現実になる。曲にある歌詞はそういう目的で書かれているのが多いと思う。実際は真実ではないかもしれない、パワフルな役柄を演じる。歌詞が自由に書けるから、そのパワーを実感できる。」

「Country Sleaze」では、Lottieがセックスのぐちゃぐちゃベタベタした感じについて歌い、恥じらいを捨て本能的な現状を容認している。「女性が性に開放的だ言うと、社会からは今でも悪いことだと思われる。でも自分に自信が持てるのは本当に素晴らしいことよ。セックスができて、特に意味を持たないセックスがあると知っていても、あなたは悪い人なんかじゃない。」Ellieは微笑む。「曲は、いい意味でかなり気持ち悪いわ。良い人ぶっていないし、ラブソングでもないから。」

間奏曲は即興で作られた。「Rosyはピアノの基礎があったの。スタジオの照明を消して、みんなで酔っ払って、スモーク・マシーンをつけて3−4時間くらいいた。 だからあんなに奇妙な、現実味を帯びていないサウンドに聴こえるのね。」そして最後の曲「Tomorrow」は変化球だ。Bugsy Maloneの曲を、美しく不安げに表現し、最後には夜明けの鳥のさえずりが聴こえ、乱雑な長い夜の後には、新しい可能性があるということが感じられる。

Goat Girl

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19曲、40分をかけて、Goat Girlのデビュー作品は、非常に汚れた醜い都市という現実を題材に、半分ファンタジーの世界を作り上げた。バンドによると、「簡潔に言うと、このアルバムはロンドンで育ったことや、私たちが直接体験した都市の退化が背景になっている。私の目を通して見たロンドンという場所だけではなく、ロンドンで起こっている、異常や奇妙な出来事を気にせずにいられない人という立場からアルバムを作りたかった。その方が、人間なら誰しも感じることのある、語られない真実や感情を、歌詞や音楽を通してもっと自由に探求できると思ったの。」

この世界は、気味の悪い奴や、嘘つき、恋人、夢追い人、そして素晴らしい狂人たちで溢れている。これはとてもイギリスらしいアルバムだ。The Kinksのような鋭い観察があり、The Slitsのような怪しげな怒りがある。だが、スワンプ・ロックを思わせるような威勢の良いギターや、Lottieの下品でゆっくりした口調も満載だ。「こんな歪んだカントリーサウンドにしようと思ったわけではなかったんだけど、もともと私たちが魅力を感じたり、インスピレーションを受けていたりしたのがそういう音だったんだと思う。ローファイで、不協和音や、しゃがれた音を出すバンド。」

彼女たちは、Shame、Bat-Bike、Madonnatron、Horsey、Sorryその他多数から成るサウスロンドンシーンの一員だ。「Windmill やTrashmouthのギグはとても重要。規則性があるのよ。色々なギグや会場で同じ人を何度も見かける。お互いが助け合うの。ギグに出してあげたり、出させてもらったり。お互いの音楽を素直に良いと思っているから。」
Windmillのプロモーター、Tim Perryもそういうことを意識し、念入りなアプローチで、バンドがお互いのサウンドを引き立たせるようなラインアップを作りあげている。「Windmillは私たちにとって大切な場所。私たちの音楽が意味を成す初めての場所だったから。それまでも、色々な場所でギグをやってきたけど、心地よい環境として落ち着けたのはWindmillが初めてだった。Windmillでは、人々が素直に音楽を聴き、ありがたみを感じているし、法律やライセンスの悪影響を受けていない会場だからセーフスペースなの。」

ライブで経験した自由のおかげで、Goat Girl は曲をレコーディングするときも自由なアプローチで臨むことができた。「ライブの感じと同じような響きにしたかったから、テープ中心のアプローチが私たちにとって最適だということが最初から分かっていたの。(テープでレコーディングすると)失敗してもそれをエディットして消すことができないから、そのままにするでしょ。そうすると、完璧にしなければいけないという意識がそこまで強くなくなるの。」

「Streathamにいるプロデューサーで、私たちのニーズに合致している人がいると聞いたから彼に会いに行ったわ。Dan Carey。彼のスタジオは、自宅の一階の一部屋なの。それも魅力的だった。とてもリラックスできて、レコーディングするのに自然な環境だった。それはバンドにとって大切なことだった。演奏していても音のエネルギーに心地良さが感じられるから。それに一つの部屋で一緒に演奏していて、 ダンがしゃがんだりして色々実験しながら、ライブの最終アウトプットを模索している時、私たちはお互いのサウンドを聴きながら影響を与え合うことができた。それは今までに体験してきたたような、各自が隔離された、豪華なハイファイスタジオとは違った環境だった。」

「Danはマッドサイエンティストみたいなの。 スタジオを歩き周って、アナログ楽器を色々といじりながら、自分の世界に没頭している彼を見ていると、素敵だなと思うし、そんな彼のそばにいるとインスピレーションを受けるわ。私たちが求めていたのは、何が機能すると思うかを教えてくれるプロデューサーよ。私たちが指示するのではなくてね。私たちはプロデューサーじゃないんだもの。新しい見方で自分たちの音楽を捉えらえる人が欲しかった。じゃなかったら意味がないじゃない?」

「全てをテープに録音したことで、各曲の基礎を早く固めることができて、不要な面倒を省くことができた。その分、アルバムのプレプロダクションの段階でより念入りに考えることができた。曲が次の曲へと統一感ある感じで流れ、シングルをまとめただけのアルバムではなく、アルバムという物語ができるようにした。」 この最初の過程を簡潔にするという作業は、 ライブ音楽で最初に発生する生々しい瞬間を捉えるために、1日で作曲と録音をするという、Dan Careyが自身のレーベル<Speedy Wunderground>で掲げている哲学を反映したものだ。Goat Girlはその精神にインスピレーションを受けた。

「その後は、曲それぞれのレイヤーやテクスチャにじっくりフォーカスして、ただのライブで弾いた過激なギター音楽に聴こえないように、曲が示唆しうる様々な文脈について考えたわ。私たちみたいな楽器の演奏の仕方だと、そういう世界でやっていくのは安易すぎると思っていたから、今回は、そんな気持ちを乗り越える良い機会だった。Danのスタジオで作業する上で素晴らしいことは、スタジオには様々なアナログ・シンセやサウンドから選ぶことができるから、もっとエレクトニックなサウンドに近づける可能性に囲まれていることなの。そこで私たちはスワーマトロンやメロトロンやドラムマシーンなどを加えて行った。」このエレクトロニックな体験は、インディーギターが基盤となったシーンに閉じ込められていたらしいGoat Girlにとっては大切な体験であったが、もちろんバンドを定義づけるものではなかった。「どのバンドでもそうだけど、商品化は避けられない。レコーディングの段階で実験をして自分たちの音楽を進化させることができたおかげで、自分たちの音楽が今後どんな道に進んでいくことができるのかと言う様々な可能性が見えてきた。」

1つの形からサウンドを進化させたいという気持ちの背景には、メンバーそれぞれが異なった音楽のテイストの持ち主であり、バンドに対してそれぞれが異なる貢献をしているという点も起因している。 Lottieは次のように語る「私たちは幅広いジャンルの音楽を聴くから、それが様々な方法で自分たちの音楽に反映されていると思う。私は個人的には、実験的なエレクトロニック音楽が主に好きなんだけど、プロダクションにかなりの手が掛けられたポップも好きで、それが私のメロディや構成のアプローチに反映されていると思う。」Goat girlを聴くと、他にもクラウト・ロック、ボサノヴァ、ジャズ、ブルースなどにインスピレーションを受けていることが聴き取れ、その影響は多様で興味深い。

リードシングルの「Cracker Drool」は、粋であると同時に邪悪な雰囲気があり、渦巻くようなギター、響く歌声、ドラムの合成音が重なり、混ざり合い、暗いストーリーを物語る。そして「Slowly Reclines」へと続くが、この曲も同じくらい邪悪で、かなりの重みも感じられる。アルバムは区切りをつけてレコーディングされた。一度に2、3、4曲ずつ、がむしゃらなエネルギーとともに。間奏曲でそのエネルギーが途切れると、さらに奇妙なパラレルワールドが垣間見られる瞬間を感じられる。

「Creep」は予想通りでニヤリとしてしまうかもしれないが、実際に起こった出来事からインスピレーションを得てできた曲だ。「電車のキモい奴(Creep on the train) / マジであんたの頭を潰してやりたい(I really want to smash your head in)。」「そういう状況になった時、立ち向かえると普段は思っているでしょ。」 Lottieは言う。「でも多くの場合、静かな礼儀正しさというものに乗っ取られて、何も起こっていないかのようなふりをしてしまうの。自分の頭の中では、全てが起こってしまったのに。そんな一連の出来事を、歌詞を使って好きな物語に捻じ曲げることができると、実際に何かやり遂げたような感じにさせてくれるの。そしてそれが自分にとっての現実になる。曲にある歌詞はそういう目的で書かれているのが多いと思う。実際は真実ではないかもしれない、パワフルな役柄を演じる。歌詞が自由に書けるから、そのパワーを実感できる。」

「Country Sleaze」では、Lottieがセックスのぐちゃぐちゃベタベタした感じについて歌い、恥じらいを捨て本能的な現状を容認している。「女性が性に開放的だ言うと、社会からは今でも悪いことだと思われる。でも自分に自信が持てるのは本当に素晴らしいことよ。セックスができて、特に意味を持たないセックスがあると知っていても、あなたは悪い人なんかじゃない。」Ellieは微笑む。「曲は、いい意味でかなり気持ち悪いわ。良い人ぶっていないし、ラブソングでもないから。」

間奏曲は即興で作られた。「Rosyはピアノの基礎があったの。スタジオの照明を消して、みんなで酔っ払って、スモーク・マシーンをつけて3−4時間くらいいた。 だからあんなに奇妙な、現実味を帯びていないサウンドに聴こえるのね。」そして最後の曲「Tomorrow」は変化球だ。Bugsy Maloneの曲を、美しく不安げに表現し、最後には夜明けの鳥のさえずりが聴こえ、乱雑な長い夜の後には、新しい可能性があるということが感じられる。