MUTANT
Guedra Guedra
RELEASE: 2025.08.29
ボイラー・ルームの出演でも話題を呼び、〈On The Corner〉よりリリースした前作『Vexillology』はMixmag、The Guardian、Resident Advisor、そしてここ日本では ele-kingでも絶賛を受けたモロッコ出身のDJ/プロデューサー、Guedra Guedraが〈Domino〉傘下の〈Smugglers Way〉よりセカンド・アルバム『MUTANT』をリリース!
Guedra Guedraのサウンドは、ビジョナリーな電子音楽とアフリカ大陸各地の音楽的伝統がまばゆく融合したものである。モロッコ出身のプロデューサー、Abdellah M. Hassakによるこのプロジェクトは、本作『MUTANT』において、アナログ・シンセやドラムマシンから生み出されるリズムと音を基盤に、モロッコ、タンザニア、ギニアなどを旅して採集した打楽器の断片やフィールド・レコーディングを融合させている。
アルバムは、アイデンティティ、パン・アフリカニズム、アフロフューチャリズム、脱植民地主義といったテーマを探求し、大陸の音楽的遺産とテクノ、ベースミュージック、ダブの要素の橋渡しをしている。「自由に作曲できるエネルギッシュなものを作りたかった」とAbdellahは語る。「アフリカやディアスポラの音楽を革新的に探求しつつ、文化的な響きとリズム、ベースのヴァイブスを感じられるようなサウンドを目指した」
このアルバムに収められた楽曲は、アフリカのポリリズムの豊かさを称えると同時に、それが長らく西洋的な論理や標準化のモデルによって形成された技術的ツールや思考の枠組みによって周縁化されてきた現実に挑んでいる。「主流の音楽制作ツールは、非西洋的な文化表現の深みや繊細さを捉えるのが苦手だ」とAbdellahは指摘する。「非線形のリズムや意味のある沈黙、コミュニティ主導のダイナミクスなどが、他文化では不可視化されてしまう。だからこそ、音楽や技術を脱植民地化するとは、そうしたツールの根本を問い直し、他の世界観を受け入れられるような設計に再構築することなんだ」
"Guedra Guedra"という名前は、サハラ地方のモロッコの伝統舞踊を指すと同時に、皮を張ることで太鼓として使える調理鍋の名前にも由来している。カサブランカで生まれ育ち、現在はマラケシュと行き来しながら活動するAbdellahは、若い頃、メタルやレゲエ、ロックなど様々なバンドでベースやドラムを担当していた。やがて、Aisha Kandisha’s Jarring Effects、Muslimgauze、Badawiといった、モロッコの伝統音楽と電子音を融合させたプロデューサーたちの作品に触れ、エレクトロニック・ミュージックやダブに傾倒していった。
2020年のEP『Son of Sun』と2021年のデビュー・アルバム『Vexillology』(On The Corner Recordsよりリリース)では、ダブステップ、フットワーク、ヒップホップのベース重視のリズムに、サンプリングした声や打楽器、楽器、さらには鳥のさえずりや波の音といった環境音を加えていった。
『MUTANT』ではこれらの革新をさらに発展させ、より多様なパン・アフリカンのポリリズムをダンスフロアに持ち込んでいる。Guedra Guedraの音楽は、レジスタンスとしての表現であり、脱植民地化のプロセスでもある。抑圧された声やアフリカの存在を情熱的に受け入れる空間を想像させ、芸術の領域における権力関係への問いかけを促す。「音楽創造と祝祭の場を再取り込み(reappropriation)することは、アフロフューチャリズムにおいて極めて重要なのです」とAbdellahは語る。「それは権力関係を覆し、文化や祖先の知を称揚し、記憶、所有、アクセスといった問題を脱植民地主義の議論の中心に据えている」。
『MUTANT』は、オーガニックとエレクトロニックが巧みに融合した革新的な作品である。Guedra Guedraが使用するサンプルやフィールドレコーディングは、アフリカの多様なフォーク音楽の歴史と遺産を称えると同時に、ドラム・プログラミングやシンセによって、それらを現代のダンスフロア向けに再解釈している。