Text : 小林 祥晴
イギリスのアシッド・ハウス・シーン黎明期から活動を続けてきたDJであり、あのプライマル・スクリームの歴史的傑作『スクリーマデリカ』のプロデュースを手掛けた男ーーアンドリュー・ウェザオールを紹介する時に必ずと言っていいほど使われる、この手の枕詞は、もしかしたら彼の魅力を本当に伝えるものではないのかもしれない。
確かに、イギリス屈指の音楽革命の時代であったセカンド・サマー・オブ・ラヴでウェザオールが果たした役割は、とてつもなく大きかっただろう。しかし、そんな過去の栄光に捉われることなく、常に新しいことへと挑戦してきた冒険心、開拓精神、あるいはパンク・スピリットこそが、今も彼が人々を惹きつけて止まない理由であるはずだからだ。
アシッド・ハウス・シーンで最も重要なクラブの一つだったとされるシュームでDJをしていたウェザオールは、前述の『スクリーマデリカ』のプロデュースを始め、ハッピー・マンデーズ、ニュー・オーダー、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインなどの名リミックスも残す。セカンド・サマー・オブ・ラヴには、ダンス・ミュージックとロックのロマンティックな邂逅といった側面もあったとすれば、そこで最も重要な役割を果たしたのは、ウェザオールだと言っても過言ではないだろう。だが、その後はレイヴ・カルチャーが商業化していくのに反発するかのように、暗い地下室で鳴り響いているようなダウンビートへと手を染める。セイバーズ・オブ・パラダイスとして発表した作品群はトリップ・ホップの先駆けとも言える内容であり、94年の『ホーンテッド・ダンスホール』は今も輝きを失わないクラシックだ。
90年代後半からは、キース・テニスウッドとのユニットであるトゥ・ローン・スウォーズメンを活動拠点とし、ディープ・ハウス、初期エレクトロ、クリック・ハウスなどにも挑戦。だが、何よりファンを驚かせたのは、04年に発表したトゥ・ローン・スウォーズメン名義の『フロム・ザ・ダブル・ゴーン・チャペル』だろう。それまでは、テクノ/エレクトロニック・ミュージックの範疇で様々な実験を行ってきたウェザオールだが、このアルバムでは自ら楽器を手に取り、メロディや歌詞を書き、歌を歌い始めたのだから。彼がここで試みたのは、ロックンロール、ロカビリー、ポストパンク、そしてエレクトロニック・ミュージックの融合である。既にキャリア15年以上の大ベテランになろうとも、一向に衰えることのないその挑戦心には、誰もが舌を巻くしかなかった。
そして、それ以降、彼のロックンロールやロカビリーに対する情熱は留まるところを知らない。今年初めて本人名義でリリースされたアルバム『ア・ポックス・オン・パイオニア』は、『フロム・ザ・ダブル・ゴーン・チャペル』から続けてきた音楽的挑戦の成果が実を結んだ、近年における一つの到達点だ。ロックンロールやロカビリーは、今やウェザオールのサウンドとして完全に血肉化されている。「今、俺が音楽を作るときに意識してるのは、ロックンロールの感覚、ロックンロールのリズム、ロックンロールのサウンド。これだけだよ」とウェザオールはロックンロールへの情熱を語る。「ドラム・マシーンやコンピューターを使っても、俺の中にはいつだってロックンロールの感覚が走ってるんだ」。
これまでプロデューサーとして縦横無尽に様々なジャンルを渡り歩いてきた彼だが、もちろんDJとしても一つのスタイルに捉われないプレイを続けている。「俺は30年以上もレコードをコレクトしてきてるし、それを使って20年もDJしてるから、そこから受けた数え切れないほどの影響が俺の中に存在してるんだと思うよ。俺の血管の中を流れてるんだ」と語るウェザオールは、大会場でテクノを回すこともあれば、小さなパーティで古いロカビリーを回すこともある。07年に幕張メッセで開催された〈オブリビオン・ボール〉では、それぞれのセットにテーマを持たせて、4回もDJブースに立った。最初のインディ・ダンス・セットでは、ハッピー・マンデーズやジョイ・ディヴィジョンを回し、明け方のオールドスクール・セットでは大アンセムの“ストリングス・オブ・ライフ”やセイバーズ・オブ・パラダイスの名曲“スモーク・ベルチ2”を投下してファンの涙腺を決壊させたことを憶えている人も多いだろう。果たして、今回はどのようなDJを見せてくれるのか。その内容は予測不可能が、必ずや私たちを熱狂させてくれるに違いない。
プライマルズのロッキンな楽曲を、UK音楽史上極めて重要なトラック「ローデッド」へとリミックスし、インディー・ダンス・ムーブメントの功労者としてその名を馳せた90年代初頭から、セイバーズ・オブ・パラダイスや<ワープ>からもアルバムをリリースしているトゥ・ローン・スウォーズメンとしての活動を経て、今年8月には、遂に初の本人名義によるオリジナル・アルバム『A POX ON THE PIONEERS』をリリースしたアンドリュー・ウェザオール。
テクノ〜エレクトロ〜ハウス〜ロックといったジャンル分けを取り払い、ヤバい音を自身の感性の赴くまま嗅ぎ分け、ダンス・シーンに刺激を与えてきたUK音楽シーンの最重要人物であり、最も信頼のおける/最も尊敬に値するプロデューサー、DJである。2007年幕張メッセで行われたアンダーワールドがキュレーターを務めたダンス・フェスティバル「OBLIVION BALL」では、時間帯によってジャンルの異なるプレイを合計4セット披露。
今回の来日でもアンドリュー・ウェザオールの百戦錬磨の手綱捌きに熱い注目が集まる。
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